2007年 03月 28日
社会主義国の暗鬱 |
今度はキューバ人21歳♀の様子がおかしい。
朝バスで会っても、あの底抜けに明るい笑顔がない。
どうやらドイツ人彼氏とうまくいっていないようだ。
ただ、話を聞いてみると、彼女のお国事情も含め、かなり複雑な背景がある。
彼女はドイツ人彼氏と結婚することを前提に、数ヶ月ほど前にドイツへやってきた。
キューバでは、さすが社会主義国とあって、国民が出国するのは一筋縄ではいかないらしく、彼女の渡独ビザの取得手続きには、ドイツ人彼氏の援助を受け、数ヶ月を要したという。相手国のビザではなく、自国の政府から発行されるビザの取得が困難なケースはあまり聞いたことがない。しかも、ビザは1人につき数枚の取得が必要で、それぞれキューバ人にとっては「信じられない額」がかかるという。キューバ政府は、どうやら金銭的に負荷をかけることで、国民の出国や亡命を防いでいるらしい。
彼女は当初、ドイツで結婚式を挙げるのを楽しみにしている、と幸せそうに語っていたが、あるときからトーンが変わった。彼女の両親を出国させるには、やはり莫大な費用がかかるらしく、さすがの彼氏も負担しきれないという。彼女は両親のいない結婚式など意味がない、と悲しい顔をした。
私が話を変え、「学校のお休みにキューバへ里帰りはしないの?」とたずねると、それは無理だという。どうやら、一度ビザを取得してキューバを出国したら、2~3年経過しないと帰国が許されず、もしそれ以前に戻るとビザが失効し、二度と出国できなくなってしまうという。
・・・なんてこった。彼女が母親と電話したときに思わず泣いてしまったと語った裏には、帰りたくとも帰れない、こんな複雑な事情があったとは。なんだか胸が詰まってきた。
さらに彼女は、お母さんが外科医師で、お父さんがエンジニアをやっている、と教えてくれた。それならキューバでは裕福な方なのかしら、などと思っていると、社会主義はそんなに甘くはなかった。いくら働いても、どんな職業でも、キューバ政府から支給される1ヶ月の給料は、多くても数千円に満たないという。
・・・なんてこった。彼女の父親はエンジニアの仕事が終わると、絵描きとして絵を描き、それを売っているという。彼女いわく、両親ともいつもいつも働いている、と。それでもお金は少ししか入ってこないと繰り返した。
彼女は話の最後に、「キューバは自然も美しいし、人々もとても親切で陽気。でも政治はよくない」と言い切った。私はその言葉の重さを受け、黙ってバスの外を眺めるしかなかった。
結局、彼女は彼との結婚は諦め、近いうちに親戚のいるスペインへ行くという。ドイツでは言語も異なるので仕事に就きづらいが、スペインならなんとかなるに違いない。キューバに愛する家族を残しつつも、出国のチャンスを得たキューバ人は、そのほとんどがなんとか外国に留まろうとするのではないのだろうか。国の事情を考えれば無理もない気がする。
これから彼女がどんな波を受けるのか、想像もつかないけれど、どんな状況でもすぐにキャハキャハ底抜けに明るい声で笑い出すのは、やはりラテンの血なのだろうか。もうすぐそんな彼女の笑い声が聞けなくなると思うと寂しいけれど、新たなる再出発に心からエールを送りたい。
朝バスで会っても、あの底抜けに明るい笑顔がない。
どうやらドイツ人彼氏とうまくいっていないようだ。
ただ、話を聞いてみると、彼女のお国事情も含め、かなり複雑な背景がある。
彼女はドイツ人彼氏と結婚することを前提に、数ヶ月ほど前にドイツへやってきた。
キューバでは、さすが社会主義国とあって、国民が出国するのは一筋縄ではいかないらしく、彼女の渡独ビザの取得手続きには、ドイツ人彼氏の援助を受け、数ヶ月を要したという。相手国のビザではなく、自国の政府から発行されるビザの取得が困難なケースはあまり聞いたことがない。しかも、ビザは1人につき数枚の取得が必要で、それぞれキューバ人にとっては「信じられない額」がかかるという。キューバ政府は、どうやら金銭的に負荷をかけることで、国民の出国や亡命を防いでいるらしい。
彼女は当初、ドイツで結婚式を挙げるのを楽しみにしている、と幸せそうに語っていたが、あるときからトーンが変わった。彼女の両親を出国させるには、やはり莫大な費用がかかるらしく、さすがの彼氏も負担しきれないという。彼女は両親のいない結婚式など意味がない、と悲しい顔をした。
私が話を変え、「学校のお休みにキューバへ里帰りはしないの?」とたずねると、それは無理だという。どうやら、一度ビザを取得してキューバを出国したら、2~3年経過しないと帰国が許されず、もしそれ以前に戻るとビザが失効し、二度と出国できなくなってしまうという。
・・・なんてこった。彼女が母親と電話したときに思わず泣いてしまったと語った裏には、帰りたくとも帰れない、こんな複雑な事情があったとは。なんだか胸が詰まってきた。
さらに彼女は、お母さんが外科医師で、お父さんがエンジニアをやっている、と教えてくれた。それならキューバでは裕福な方なのかしら、などと思っていると、社会主義はそんなに甘くはなかった。いくら働いても、どんな職業でも、キューバ政府から支給される1ヶ月の給料は、多くても数千円に満たないという。
・・・なんてこった。彼女の父親はエンジニアの仕事が終わると、絵描きとして絵を描き、それを売っているという。彼女いわく、両親ともいつもいつも働いている、と。それでもお金は少ししか入ってこないと繰り返した。
彼女は話の最後に、「キューバは自然も美しいし、人々もとても親切で陽気。でも政治はよくない」と言い切った。私はその言葉の重さを受け、黙ってバスの外を眺めるしかなかった。
結局、彼女は彼との結婚は諦め、近いうちに親戚のいるスペインへ行くという。ドイツでは言語も異なるので仕事に就きづらいが、スペインならなんとかなるに違いない。キューバに愛する家族を残しつつも、出国のチャンスを得たキューバ人は、そのほとんどがなんとか外国に留まろうとするのではないのだろうか。国の事情を考えれば無理もない気がする。
これから彼女がどんな波を受けるのか、想像もつかないけれど、どんな状況でもすぐにキャハキャハ底抜けに明るい声で笑い出すのは、やはりラテンの血なのだろうか。もうすぐそんな彼女の笑い声が聞けなくなると思うと寂しいけれど、新たなる再出発に心からエールを送りたい。
by nachapin110
| 2007-03-28 14:28
| ドイツの風景